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第13章 消えたタグたちは何を残したのか

文字を点滅させる <blink>、文字を流す <marquee>、文字を大きくする <font>。いまでは笑い話のようなこれらのタグも、かつては真剣に使われ、そして消えていきました。なぜ生まれ、なぜ消えたのでしょうか。

この章では、blink marquee center font のような消えた要素を、単なる黒歴史として笑うのではなく、当時の Web が何を欲していて、標準が何を学んだのかの痕跡として見ます。ゴールは、obsolete になった要素を見たときに、「昔は雑だった」で終わらせず、「どんな需要に応え、どんな代償を残したのか」を説明できるようになることです。

前章では、仕様書が実装者や著者や標準化側の合意を背負う文書だと見ました。この章では、その合意がまだ固まりきっていなかった時代の試行錯誤へ進みます。次章では、その逆側にある「理想を厳密に貫こうとした XHTML」が、なぜ広がりきらなかったのかを見ます。

13.1 fontcenter は著者の即時需要に応えた

いまの感覚で見ると、fontcenter は「見た目を HTML に埋め込んだ悪い例」に見えます。たしかに、文書構造と見た目の分離という観点からは後退でした。

しかし当時の著者にとって重要だったのは、理念より先に「文字を大きくしたい」「中央寄せしたい」をすぐ実現できることでした。CSS がまだ十分に普及していない時代に、見た目を制御する需要だけが先に消えるわけではありません。fontcenter は、その即時需要にまっすぐ応えた要素でした。

当時は、見た目を分離する理想よりも、ページをいま見栄えよくしたい圧力のほうが直接的でした。しかも、著者ごとに別々の回避策へ流れるくらいなら、要素として用意されている近道のほうが使われやすい。fontcenter は、そうした現場の圧力を吸収する役目も果たしていました。

ここで見えてくるのは、要素がまずかったというだけではありません。標準が、著者の需要に対して十分な手段をまだ提供し切れていなかった、という事情です。だからこそ、見た目を直接いじる近道が広まりました。

blinkmarquee は、さらに分かりやすい例です。文字を点滅させたい、流したい。その要求自体は、いま見ると派手で落ち着きがないかもしれませんが、当時の Web では「目立たせたい」という切実な需要でもありました。

<blink>新着情報</blink>
<marquee>セール開催中</marquee>

問題は、こうした要素が文書の意味を深めるより先に、表示効果そのものを要素化してしまったことです。しかも blinkmarquee は、標準化された文書構造の一部というより、ブラウザや実装都合の強い拡張として広まりました。ここでは「需要があったこと」と「その解決が長持ちする設計だったこと」は別です。

それでも重要なのは、こうした要素を笑って終わらないことです。標準の外で広まる拡張は、「そんな需要はない」の証拠ではなく、「標準がまだ受け止めきれていない需要がある」の証拠でもあります。

13.3 消えた要素が残したのは、需要を無視しないという教訓である

消えたタグたちが残した教訓は 2 つあります。1 つは、見た目や効果をそのまま要素へ閉じ込めると、文書構造が濁り、長期的な保守や再利用が難しくなること。もう 1 つは、著者の需要を「低レベルだから」と切り捨てても、その需要自体は消えず、独自拡張や回避策として別の場所から噴き出すことです。

この 2 つを同時に見ないと、歴史を後知恵で裁いてしまいます。fontcenter を deprecated にする判断は筋が通っていますが、それは「最初から不要だった」ことを意味しません。むしろ、「その需要をもっと持続可能な形で受け止める必要があった」と読むほうが、現在の標準化にもつながります。

この意味で、消えた要素は失敗の残骸というより、標準がどこで著者の需要と衝突したかを示す痕跡です。

13.4 古い要素を笑わないことが第4部の入口になる

実務で古い HTML を見ると、fontcenter を見つけて反射的に「時代遅れだ」と言いたくなります。その判断自体は現在の推奨として間違っていません。ただし、この章で大切なのは、現在の推奨と、当時その要素が広まった理由を分けて考えることです。

ここで分けたいのは、「便利だったこと」と「長持ちする設計だったこと」です。fontmarquee は前者としては機能しましたが、後者としては問題を残しました。この区別を入れないと、過去を必要以上に擁護するか、逆に必要以上に嘲笑するかのどちらかに傾きます。

古い要素を笑うだけでは、Web がどうやって現在の設計へ寄ってきたのかは見えません。重要なのは、「なぜそれが必要とされたのか」「なぜ長続きしなかったのか」の両方を見ることです。そうすると、HTML の歴史は単純な進歩史ではなく、理想と現場の要求を何度もすり合わせてきた歴史だと分かります。

ここまでで、消えた要素たちは単なる恥ずかしい過去ではなく、標準が著者の需要をどう受け止めるべきかを残したと見えてきました。次章では、その逆側で「もっと厳密に、もっときれいに」を押し進めた XHTML が、なぜ Web 全体の現実とは噛み合いきらなかったのかを見ます。

参考資料